タッピンネジについて

ネジは、重要な機構部品である。部品間の締結に使う道具である。

今日は、その中でも混乱しにくいタッピンネジについて述べたいと思う。

タッピンネジとは?

通常、ネジは、ネジ自身と相手部品が、互いに凹凸の関係になり噛み合うように作られている。一方、タッピンネジとは、ネジ自身には弦巻があるが、相手はただの穴で、ネジの弦巻で相手部品の穴に溝をつけながら締結するネジのことを言う。

このように締結することを、「セルフタップ」という。自分でタップするということですね。

タッピンネジの欠点とは?

溝のない穴に溝を切りながら締結できるタッピンネジだが、ネジを無理やり切っていくので、強いトルクが必要となる。

ネジのサイズが大きくなると、締結のために大きなトルクが必要となるので、作業性が悪くなる。

作業性を改善するためには?

作業性を改善するには、「タップタイトネジ」を使うのが一般的である。

通常、ネジのネジ部(= 溝が彫ってある部分 )は、円柱形、または円錐形である。しかし、タップタイトは、断面が「円」ではなく、「角の丸い三角形」なのである。

このネジを使うと、穴に対するネジの接触領域が、丸みを帯びた角だけになるので、締結のために必要なトルクを下げられる。

また、穴の壁面と主に接触しているのは、三角形の角であり、それ以外の領域は隙間が空いていると思いきや、穴の壁面が収縮してくるためにあまり空いてはいない。よって、タップタイトは回り止めを抑制する効果が期待できるのである。ネジ緩み、空転対策に使ってみたらどうであろうか?

※ タップタイトは、相手部材の穴の設定値に厳格な規定があるので、使用の際は、設定値を調べて使用のこと。適当にやると、外れやすくなったり、下穴を破損させたりすることがあります。

Bタイト、Pタイト、Sタイトとは何か?

全てタップタイトネジの一種である。

構造的には、ネジのピッチで区分けされる。

・Bタイト ⇒ タッピン二種( 普通のタッピンネジ )と同じ

・Pタイト ⇒ タッピン二種より、ピッチが大きい。

・Sタイト ⇒ メートルネジと同じピッチなので、ピッチがかなり狭い。

通常のタッピンネジは、樹脂や鋼板に対しても使用できる。したがってBタイトは、通常のタッピンネジのように使える。

Pタイトは、ピッチが大きいので、樹脂に対して使用するべきである。ピッチが大きい分、早く締結できる。また、樹脂部材の白化や割れが起こりにくい。

Sタイトは、ピッチが小さいので、鋼板専用である。樹脂に使ってしまったら、じきに空転してしまいます。小ねじとピッチが同じなので、後で小ねじに切り替えることもできる。

とまあ、こんな感じでタッピンネジとタップタイトネジについて概要を描きました。

機構設計者として製品の筐体設計など担当したとき、ネジにどれを使うかいうのはいつもの議題になります。たいてい、樹脂を止めるときは、初めタッピンネジでやっていて、強度試験で緩んだらBタイト、それでもだめならPタイトという感じで変えていったりします。はじめからPにしとけばいいじゃねーかというご指摘もあるのですが、部品の共通利用の観点から、そう簡単にはできない事情もあるのです。

試作などの一点ものなら、緩みに不安があるなら、始めからPタイトにしておけばいいと思います。

滑車

人類が古代から利用している道具に、滑車(pulley,block,tackle,sheave)という物がある。これは何であろうか?

滑車とは?

重い荷物をもち上げるのに使う道具である。 持ち上げようとする荷物を「少ない力で持ち上げたり」、 「加える力の方向を変えたり」 することができる。

先日、NHKの番組で、古代ローマのコロッセオの壮大な仕掛けについてのドキュメンタリーがやっていた。そこで、闘技場の地下に導いた猛獣(ライオン、象etc)をどうやって闘技場にあげたのか?という課題について再現実験がなされていた。

初めは、歯車とロープを使うモデルが提案されていた。男たちが力を合わせて歯車を回す。それによって檻の天面に結びつけられたロープが巻き上げられ、檻が上に上がるというものである。

しかし、檻の重さだけでも500kg程あり、とても上がらなかった。

そこで、現場担当のエンジニアが思いついたのは、滑車を使うということであった。

滑車の基本原理

滑車は、一般に、「定滑車」と「動滑車」がある。軸が天井などに固定されて動かないものを定滑車。軸に重りがぶら下がっており、滑車が動く物を動滑車という。

定滑車は、重りをもち上げるためには、重りと同じ力でロープを引っ張らなければならない。しかし、重りをもち上げるために、力を下に加えることでそれを実現できる。定滑車は、「重りと同じだけの力が必要だが、持ち上げるための力の向きを変換する効果」があるのである。

一方、動滑車は、重りに対して持ち上げる力の方向は同じだが、半分の力で持ち上げることができる。「持ち上げるための力の向きは同じだが、半分の力で持ち上げられる効果」がある。まとめると、下図のようになる。

これらの性質から定滑車と動滑車を組み合わせることで、重りの重さに対して加える力をどんどん小さくすることができるのである。

(余談ですが、中学受験の理科のテストで、定滑車と動滑車を組み合わせた複合滑車の問題がしばしばでます。しかし、上の「二つの性質」と「力のつり合い」を知っていれば、全部解けます。)

滑車で重い物を軽い力で持ち上げる例

例えば、下記のような複合滑車を考えてみる。

定滑車と動滑車が二つある。二つの動滑車は互いに軸で連結されており、連結部材の中央に、W[kg]の重りがぶら下がっている。滑車の重さは無視するとする。FとWの関係式を求めてみる。

まず、各滑車の出入口のロープにかかる力は、滑車に種類よらず同じなので、非膣をFの力で引けば、下図のように各ロープにFの力がかかっていると考えられる。


次に、滑車に働く力のつり合いを考える。今、二つの動滑車の軸には、力Wがかかっている。よって、各動滑車には、W/2の力がかかっている。向きは、向かって下側である。

ここで、先に示した動滑車のロープにかかる力と軸にかかる力の関係を思い出す。動滑車のロープにかかる力は、軸にかかる力の半分である。

よって、F = (W/2)/2 = W/4 とわかる。

例えば、重りW=20kg だったとする。このとき、上記のような機構を用意すれば、F=5kg で持ち上げらる。

話が長くなったが、滑車はこのように、持ち上げるという目的に対して、定滑車と動滑車を組み合わせることで、力を加える向きを変え、かつ、小さな力でそれを達成できるのである。

先のコロッセオの猛獣用檻のエレベーターは、上記のような仕組みを使って檻の重さに対して加える力を複合滑車機構で小さくして達成していた。

普段の生活では、滑車の威力を実感する人は少ないと思うが、現在のエレベーターも基本は古代と同じである。人類の素晴らしい発明の一つだと思います。

まとめ

  • 滑車は、円盤の回転により、物を持ち上げる為の道具である。
  • 定滑車と動滑車、およびそれらを組み合わせた複合滑車がある。
  • 定滑車は、持ち上げるのに加える力の向きを変える効果がある。
  • 動滑車は、加える力を半分にする効果がある。

ベイズ統計

日頃の業務の中で、大量のデータがない中で判断しなければならないことはないだろうか?

こうしたときに役に立つのが、ベイズ統計である。

主観的確率統計などと言われることがある。条件付き確率という形で、高校の頃に習った人もいるかもしれない。

どうやって使うのか?

ベイズ統計では、まず、統計的に判断したい現象について、物語を作るところから始まる。物語は、「このように判断するかどうかを、こういう現象が起こるかどうかで決めよう。起きたら、判断は正しかったとより思えるし、起きなかったら別の判断をするべきだったと思う。」という感覚で作る。

もう少し具体的に書くと、「Aと判断したら、XまたはYという現象が起こりうる。Bと判断しても、XまたはYという現象が起こりうる。」という具合にする。

そして、AやBと判断する確率、および、AまたはB毎のXとYの起こりうる確率を、経験や議論で定める。ここで、起こりうる全てのパターンが自然に出来上がるので確率P[%]を求めておく。

次に、XまたはYという結果から、AやBと判断する確率を修正する。この箇所が、ベイズ統計による判断である。主観的と言われる所以は、起こりうる物語毎の確率を仮置きして求めるからだと私は思っている。

ベイズ統計の優れたところは、仮置きで一応の判断ができることと、それを少ない実験で精度を訂正していけるところにある。

こうした理論上の性質から、ベイズ統計は、企業が重要な判断を、コストや倫理的な犠牲を払わずに行うのに適している。では、具体的にどのように仮定し、更新していくのか、一例をあげたいと思う。

具体的にやってみる。

問題:合コンで初見の人が、信頼できる人かどうかを判断したい。

例えば、「相手が信頼できるかどうかを、会話の中で、正直者か嘘つきかで見極めよう。」と考える。

先のAとB、XとYに当てはめてみる。

A:信頼できる。

B:信頼できない。

X:正直なことをいう。(= 嘘をつかない )

Y:嘘つき。

Aと判断したら、XまたはYという現象が起こりうる。Bと判断しても、XまたはYという現象が起こりうる。

ここまでできたら、下のような樹形図を作って、起こりうるストーリーの確率を求める(まだ、実際には起こっていない)

初回デートで、相手の雰囲気からその人が信頼できる確率を、偏見なしの50%とする。そして、その場合、嘘をつかない確率を90%、嘘をつく確率を10%とおく。すると、最終的なストーリーの発生確率は上図のようになる。同様に、信頼できない場合の嘘つくつかない確率も仮定し、最終的なストーリーの発生確率を求める。

この分岐毎の確率は、自己の経験や専門家(占い師)などの意見をきくなりして決めると、精度がより上がる

マトリクスにまとめると下図のようになる。

これが初回デート前のシミュレーションである。この条件下で、デートに臨み、相手が、もし自分に対して嘘をついたとする。すると、その嘘により、信頼できる確率が下図のように修正されることになる。

デートの前は、初見での信頼できる確率を偏見なしに50%としていたのだが、一回目のデートで相手が嘘をついたので、それは11%に下がってしまった。逆に、信頼できない確率は89%まで上昇した。これを元に、二回目のデートをするかどうかを判断するのはあなた次第である。図にすると下記のようになる。

「信頼できて、嘘つかない」と願うあなたの思いは、9.9%しかないと判断できる。また、4つの起こりうる確率から、この人は、「信頼できず、嘘つき」である確率が最も高く、付き合うに値しない人であると判断できる。

このように、未知の減少で、お金や時間、倫理的理由など限られた条件下で、何らかの根拠をもって重要な判断しなければならないときに、ベイズ統計は有効である。

是非、仕事で、使ってみてほしい。この考え方は、経験をもとに判断し、経験によって修正するという我々人間の特性に近く、意外にすんなり受け入れられると思われる。

では!