最近、熊を駆除してよいとか、してはならないとかいう論争をネット記事で目にすることがある。
熊を駆除してよい方の主な主張は、「人に危害を及ぼすから」である。
熊を駆除してはならない方の主な主張は、「可哀想だから」である。
本日は、この点についてつぶやきたいと思う。
この世には、様々な生命体が存在している。命の尊さという点で、全ての生命体の命を同等に扱うのならば、ある生命体のある個体が、同種、または別の生命体の命を奪うことは、良くないことである。不当に命を奪うことは、争いを生むからである。なんとなく、嫌な気分にもなる。
しかし、動物( 生物学的には、虫も含む )は、他の生命体の命を奪わずに、自らの命を維持することはできない。人間は、肉、魚、植物を食べねば死んでしまう。コアラのような草食動物も、ユーカリの葉を食べねば死んでしまう。虫だって、植物を食べねば死んでしまう。このことから、生命の維持のために他の生命体の命を奪うことは、動物の本能の一つであり、必然の行為といえる。
ところで、我々の日常生活に目を向けると、食(=生命維持の本能的行動 )でないのに他の生命体の命を奪う行為を人間は行っている。これは、正しい行動なのかを考える。例えば、排水溝周りの汚れ。細菌の集団に対して、我々は、アルカリ洗剤をかけてそれを溶かす。また、蚊やゴキブリは、駆除の対象である。これらの理由は、何であろうか?
排水溝周りの汚れは、放置すればそれは拡大する。やがて、菌類の発する胞子を人が呼吸を介して体内にいれることで、人は健康を害してしまう。だから、こまめに殺菌するのである。また、蚊に体の血を吸われると、皮膚に炎症反応が起きるし、その際に病気を植え付けられる可能性がある。さらに、ゴキブリが屋内を動き回ることで、病原体やアレルゲンがまき散らされ、健康被害が引き起こされる。だから、我々はこういった生命体を駆除するのである。この行為を非人道的だとか、動物愛護の観点から悪だとかいう人は聞いたことがない。我々人間にとっては、「自分の生活圏で、健康(=命)を脅かす生命体を駆除する行為は、正義」といえそうである。
では、この定義[ 人は、自分の生活圏で、健康(=命)を脅かす生命体を駆除する行為を正義とする ]について、もう少し考えてみる。例えば、アライグマやハクビシンを考える。彼らは、都心にもよくいる動物である。夜に動きまわるので、普段目にすることは少ない。農作物や外犬の餌の残りを食い散らかし、病気をまき散らすので、害獣である。捕まえたら、駆除の対象である。ただし、自分で捕まえて駆除することは禁止されており、専門の業者に相談の上対処することが求められる。この場合は、先の定義は正しく適用されるといえる。では、キタキツネはどうであろうか?彼らは、エキノコックスという人にとって害となる寄生虫をもっている。そのため、出会っても気軽に触ってはならない。しかし、彼らを害獣とよぶケースは少ない。なぜであろうか?彼らは、森に棲んでおり、畑などにあまりこないからである。もし、彼らが畑に大量に押しよせ、米やジャガイモを食い散らかすという事例が多発すれば、彼らは害獣となる。人の生活圏に入り、人の命の維持のための食糧を奪い、かつ病気をまき散らすので、人の健康を脅かすからである。
以上から、「人は、自分の生活圏で、健康(=命)を脅かす生命体を駆除する行為を正義とする 」は、ある程度は正しいと私は考える。図にすると、下記に当てはまる場合に、原則、駆除対象である。

では、熊を駆除することについて、上の定義に基づいて考えてみる。
熊は、基本的に野山、森の中に暮らす生き物である。しかし、食料調達の観点から、畑や家畜を食い荒らしたり、家の敷地に侵入したりする場合は、人の生活圏にくることもある。また、熊は、非常に憶病な性格なために普段は人に出会わないように注意を払うが、いざ対面する距離まで接近を許すと覚悟を決めて相手を殺傷する生き物である。その強力な力と、鋭利な爪による破壊力は、到底人の及ぶところではない。そんな衝動と力を備えた熊は、人の生命に危機を及ぼしうるのは明らかである。よって、田畑や町、家の庭に出没した熊は、駆除の対象である。
一方、野山や森は人の生活圏とはいいがたいので、そこで暮らす熊は、当然、駆除の対象外である。
ここで、人の生活圏に踏み入った熊に対して、「熊はそこが人の生活圏と知らないで入ったのだから、それで駆除されるのは可哀想だ!だから、熊は駆除してはならない。」と主張する方がいる。私は、この主張を受け入れることはできない。人を除いた動物が人の生活圏を明確に意識したかどうかは判別のしようがないし、今生活圏にいて殺傷本能むき出しの動物に対して可哀想云々をいっていたら自分や仲間の命が脅かされるからである。百歩譲って動物愛護の観点に少し配慮した議論をするとすれば、人の生活圏に現れる頻度によって生活圏にいるか否かを判定し、駆除方針を定めることであろう。
例えば下図の赤枠のように、生活圏での目撃頻度で、生活圏にいるかどうかを判断する。この辺りは、地方行政で話し合い、ことが起こった時に粛々と対応できるガイドラインを整備しておくことが大事だと思う。なお、目撃は、町中の監視カメラも含めるとする。

私個人としては、熊のように出会ってしまった場合に殺傷本能のスイッチがONになる生き物の場合は、町中で一件でも目撃された場合は即駆除するべきだと思う。誰かが殺傷されてからでは遅いからである。
以上、駆除してよいものとそうでないものの判定について、呟いてみた。可哀想云々という感情論を言う前に、自分や大切な人たちの安全と、対象生物の殺傷本能を理解した上で、どう対処するべきか考えてほしいと思う。